プログラマでありたい

おっさんになっても、プログラマでありつづけたい

年金の味がするお米

 煽り気味のタイトルですが、わりと真面目な話です。私の田舎の方で長らく続けてきたお米作りを止める決断がされました。それについていろいろ思う事があるので、文章として残しておくことにします。


zcf428526によるPixabayからの画像

背景の説明と止めるに至った経緯

 まず登場人物の関係をぼかしたまま書くと、読んでいる人は訳がわからなくなるので差し支えのない範囲で背景を説明します。田舎と書いて実家と書かなかった理由としては、次のような感じです

  • 私が30歳くらいの時に、兵庫県にある父方の私の伯父に養子にいって家を継ぐことになった。私の感覚としては、実家というよりおばーちゃんの家
  • 生まれ育った家は滋賀県の大津市にあり、兄夫婦が住んでいる
  • 実母は既に亡くなっており、実父は田舎と呼んでいる家から車で10分くらいにある旧家を継いで暮らしている
  • 実父も40歳くらいの時に、親戚の旧家を継ぐために養子になっている
  • その関係で私は過去2回姓が変わっている。 佐々木→加藤→佐々木
  • 田舎と呼んでいるが、姫路駅など地方都市まで電車で10分ほどで都会的なものへのアクセスが遠い訳ではない
  • でも家の周りは田んぼしかないので、私の主観でも一帯に住んでいる人の主観でも、田舎としか言えない
  • 私にとって実家がどこを指すのか解らない(これは今回の話と関係ない)

 私が継ぐ事になる家は、昔は地方の名家と呼ばれるような家だったが、祖父の戦死や戦後の農地改革で家と少々の畑が残るばかりです。養父は、兼業農家として畑仕事をしながらサラリーマンとして働いていました。定年後はもっぱら畑仕事のみをしていたのですが、80歳を優に超える今は田んぼを維持するのが難しくなっています。
 私自身や私の兄も、田植えや収穫など一番手が掛かるときは手伝いにいっていました。米は一度植えてしまうと比較的手が掛からないものの、やっぱりほったらかしで出来るものではありません。雑草等も生えてくるので、泥の中を歩いて抜かないといけないです。これが足腰が弱った高齢者にはかなり厳しく、かつ、近くにいないと難しいという現実があります。ということで、今年でいよいよ米作りを止めるという決断に至りました。

周辺の状況

 では、周辺の状況はどうなんでしょうか?これもほぼ同じような感じのようです。自分の田んぼを担っていた人は、みんな80歳以上になって次々と止めるという決断になっているようです。その田んぼを地域で若手と呼ばれる50〜60歳くらいの人が借りて田植えを継続しています。そうです。50〜60歳で若手と呼ばれるのです。また、貸しているので賃料貰えるのと思われるかもしれませんが、賃料は一切ありません。そこで出来た米も一切貰えること無く、なんなら買う必要があります。条件悪いように思えますが、田舎の農地をめぐる現実はこんなものです。
 田んぼである事を止めるには、農地から転用の申請をしないといけないし、その許可がなかなか降りないそうです。運良く転用が許可されても、固定資産税は跳ね上がります。そして田舎なので、駐車場やマンションの用地としてのニーズは皆無です。

日本の米作りの現状

 ここで一旦ミクロの話から離れてマクロな話で米作りの現状をみてみましょう。農林水産省が「稲作の現状とその課題について」というレポートを出しています。これによると、基幹的農業従事者数 136万人で、平均年齢 67.8歳。70歳以上の割合が51.1%です。農家あたりの作付面積をみても、1ヘクタール未満で全体の63%を占めます。2ヘクタールに広げるとなんと81%です。2ヘクタール以下の従事者が作付面積している面積は、全体の30%になります。
 1ヘクタールの田んぼと言ってもイメージしづらいともいますが、収入にして良くて100万円くらいです。これに労働に対価いれない状態での経費を入れると利益は20万円くらいと言われています。まぁそれで生活できるレベルじゃないというのは、容易に想像できます。稲作だと専業農家としてやっていけるのは、稲作だとだいたい10〜15ヘクタールからと言われています。10ヘクタール以上の農地を持つ人の割合は、全体の3%(※)です。
※生産量換算でいうと、この3%が36%の作付面積を占めているので集約化は進んでいる模様。
 このことから、田んぼの収入だけで生活は難しいので他の収入が必要で、昔は兼業農家が多かったと思いますが、今は年金をもらいつつ田んぼをやっているというのが多いであろうことがデータから読み取れます。

 ちなみにヘクタールと収入換算だけでも解りにくいと思います。だいたい日本人が一人で1年間で食べるお米の量が、50kg程と言われています。で、この50kgを作るのにどれくらいの田んぼの広さが必要かと言われると、1アール程。1アールは0.01ヘクタールで100平方メートル。だいたいテニスコートの半分くらいです。テニスコートを見るたびに、自分が食っている米はテニスコートの半面くらいかと思い起こす呪いに掛かってください。日本の作付面積が、2020年で 128万ヘクタール。日本の国土の3.3%くらいです。この辺が、稲作の現状を把握する上で、ざっくり知っておいた方がよい数字です。
※単位面積当たりの収穫量としては、お米は他の農作物と比べてめちゃくちゃ効率が良いです。

10年後の農業は?

 話が長くなったので、ここまでの話をまとめます。

  • 日本の稲作農家の多くは、農業1本で食べていけない規模が多い
  • 稲作の従事者の平均年齢を見ると、年金をもらいながら田んぼもやっている
  • 81%の従事者が属する2ヘクタール以下の作付面積の合計は、全体の30%に及ぶ
  • 従事者の51.1%が70 代以上。80代になると継続が難しくなる

 ほぼ間違いなく、あと10〜15年くらいで農業従事者の多くが引退します。当然、子どもに引き継がれるなどの代替わりもあると思いますが、その率はそれほど高くないと思います。50%くらいの農家のうちの大部分が消滅するので、インパクトは相当大きいです。実際、耕作放棄地は急速に増加して、2015年には42万ヘクタールに及ぶようです。2020年の作付面積が128万ヘクタールなので、その1/3に匹敵します。かなり広大な面積ですよね。
荒廃農地の現状と対策について

 それでは、10年後の日本の農業はどうなるのでしょうか?作付面積は漸減していくのは間違いないでしょうが、同時に農地の集約化も進むでしょう。実際、私の田舎でも行政主導で農地の集約が進められています。それより本格的に議論していかないといけないのは、戸別所得補償制度の増額だと思います。現状、年金をもらいながら田植えをするという形です。今の高齢者が引退した後に、次の世代に引き継いでいくには補償制度なしでは成り立たないでしょう。
 米などの生活に欠かせない主食は、本質的に儲からないような価格設計にされています。先進国の農家の殆ども補償制度を前提としているようです。このエントリーのタイトルに「年金の味があるお米」とした通り現状の米作りが維持されているのは、年金を貰いながら損得勘定無視で続けている農業従事者の存在が大きいです。この仕組みが後10年以内に、いよいよ維持できなくなろうとしています。ここまで行くと政治マターですが、まともな制度設計作れるのかなぁと懐疑的です。

まとめというか、再び自分の話

 自分は農政を学んだ訳ではなく、身の回りのところと公開されているデータを元に推論した素人考えです。事実誤認しているところも多数あると思います。その辺は、ご容赦ください。
 自分が引き継ぐであろう農地については、たぶん用地変更して太陽光発電でもやるんじゃないかなぁと思います。耕作放棄地になって雑草などが生え放題になると、隣の田んぼへの害虫問題になります。それであれば、利益は殆ど出なくても税金分と土地の管理分出れば御の字だと思います。たぶん都会に出ていて相続する人の多くはそうなるんじゃないかなと思います。
 また機会があれば、旧家の没落の話でも書いてみようと思います。なかなか生々しい話なので躊躇しますが、この辺も整理しておくと良いような気がします。わりと記録が残っているので、まだ親の世代が生きているうちに記録と記憶を合わせて残しておくのもいいのかもと思い出しました。