来週、AWS Summit Tokyo 2026 が開催されます。毎年 NYC と Tokyo は開催時期も近いので、先に公開された NYC キーノートを読んでおくと会場での理解がかなり変わります。
今年の NYC キーノートは VP of Agentic AI の Swami Sivasubramanian が担当しました。全体を通じたメッセージは「Compounding Momentum(複利的な加速)」です。正しく作られたエージェントは使えば使うほど賢くなり、信頼が積み上がるほど任せられる範囲が広がる、という考え方です。
筆者の関心は Amazon Quick 寄りなので、その周辺を詳しく、他の新発表はまとめてご紹介します。
今年の AWS が一番力を入れているもの:Amazon Quick
Amazon Quickは「自分がほしい成果を宣言すると、全システム・全データ・全コンテキストを横断して手順を組み立てる AI アシスタント」です。マイクロソフトの Copilot や Google Gemini for Workspace と競合する領域ですが、AWS らしく「エンタープライズのガバナンスをどう両立するか」に軸足を置いています。
なお自動字幕では Amazon Q と誤認識されていますが、キーノート本編では一貫して Amazon Quick と発音されています。
ナレッジグラフが核心
Quick の売りは「Knowledge Graph(ナレッジグラフ)」と呼ばれるアーキテクチャです。AWS は semantic knowledge store(意味的知識基盤)とも呼んでいます。単なるキーワード検索と違い、人・文書・コミュニケーション・データの関係性と意味を推論して答えを組み立てるとのことでした。

出典: AWS Summit New York City 2026 Keynote(00:11:10)
人・文書・コミュニケーション・データの関係を推論し、会話のたびに学習します。「使い始めた初日と100日後では別物になる」というのがキーノートでの説明でした。Amazon 社内ではすでに日次180万件以上のリクエストを処理しており、発表前からプロダクション運用していた数字です。
デモ:休暇明けの Slack を60秒で片付ける
デモを担当した Brian Roer の設定が現実的でした。「休暇から戻ったら Slack もメールも溜まっている。役員会議用の PowerPoint がどこかの Slack スレッドに埋まっているが、誰が送ったかも覚えていない」という状況からスタートします。
Quick に「ボード用の PowerPoint ってどこにある?」と自然言語で投げると、送信者を指定しなくても Slack スレッドを探し出して直接リンクを返します。

出典: AWS Summit New York City 2026 Keynote(00:13:44)
続いて Snowflake や Databricks に入っているデータに自然言語で問い合わせると、SQL を自動生成してダッシュボードを作ります。ここでは既存の Amazon QuickSight の可視化機能を活用しているとも説明していました。
最後に「これを毎週自動でやっておいてほしい」という流れで、エージェントとして登録する部分を見せていました。

出典: AWS Summit New York City 2026 Keynote(00:18:30)
24時間365日でレポートを最新状態に保ち続けるエージェントです。「コードを書けない人こそ Quick でエージェントを作ってほしい」という言葉が印象的でした。
Walled Garden vs Wild Garden:AWS の答え
今年のキーノートで一番示唆に富んでいた部分です。

出典: AWS Summit New York City 2026 Keynote(00:20:00)
Swami はエンタープライズが今直面している二択を「Walled Garden(壁の中の庭)」と「Wild Garden(野生の庭)」で表現しました。
- Walled Garden:Microsoft 365 など特定スイートに閉じている。セキュリティは担保されるが、データはサイロのまま
- Wild Garden:オープンなツールを横断できる。ただしガバナンスがなく、データがどこへ行くかわからない
Quick はどちらでもなく、「横断しながら、アクション単位でガバナンスを持つ」と言っています。誰が、どのデータに、どこへアクセスし、ポリシーに適合しているかをアクションごとに記録・制御する設計です。IAM と VPC で慣れている AWS エンジニアには馴染みやすいアーキテクチャだと思います。
この辺り、各社の考え方の違いと勢力圏争いが垣間見えて面白いですね
導入事例の数字

出典: AWS Summit New York City 2026 Keynote(00:21:15)
- GoDaddy:年間15,000時間の手作業を削減
- Aderant(法律向けソフトウェア):インサイト導出90%高速化、ドキュメント精度75%改善
- NBA:25年分のドラフトデータを構造化してリーダーボード・選手比較・文脈ベンチマークに
いずれも「実験」ではなく本番稼働中の数字として紹介されていました。
そのほかの主要発表
AWS Continuum for Code Vulnerabilities(preview)
セキュリティ脆弱性対応をエージェントで自動化するサービスです。コードの脆弱性対応を「発見 → 優先度付け → 検証 → 修正」の4段階で処理します。
検証フェーズでサンドボックス環境に再現コードを生成して偽陽性を排除する点が特徴的です。「あなたの最も優秀なエンジニアと同じ視点で、ただし個別ではなくアーキテクチャ全体を見て判断する」という説明でした。
運用は2段階で、まず「alone mode(ヒューマン・イン・ザ・ループ)」で信頼を積み上げ、実績ができたら「enforce mode(自動修復)」に昇格できます。設計パートナーは MongoDB、Rivian、Robinhood、Capital One です。
あと全然関係ないのですが、Continuumと聞くと自分が初めて導入した継続的インテグレーションツールApache Continuum を思い出します。Maven連携でいろいろできたのですが、Maven職人にならないと使いこなせなかった。そして、Hudson/Jenkinsに駆逐されていきました。ここで同じ名前を目にするとは
Kiro + AWS DevOps Agent Release Management(preview)
Kiro はコード生成エージェントですが、「コードを書く前に仕様を固める」設計が特徴です。プロンプトを投げると要件・設計ドキュメント・タスク・検証テストを先に生成してから実装に入ります。Southwest Airlines が2,700人(エンジニアの約3分の2)に展開して近代化を3年前倒しした事例が紹介されました。
今回の新発表は iOS ネイティブアプリです。電車の中でタスクを起動してラップトップで続きから作業できる設計で、「思いついたときに動かせる」ことを強調していました。

出典: AWS Summit New York City 2026 Keynote(00:41:25)
AWS DevOps Agent に追加された「Release Management」は、コード生成直後に本番リスク評価をかけるエージェントです。非自明な破壊的変更(他サービスへの影響など)を検出し、サンドボックスで探索的テストを実行します。コーディングエージェントとリリースエージェントが1つのフローでつながる設計です。
加えて AWS Transform に「continuous modernization」機能も追加されました(preview)。依存関係やフレームワークの陳腐化を継続的に検知・修正し続けるエージェントで、CodePipeline・Jenkins・GitHub Actions・GitLab と連携します。
Amazon Bedrock AgentCore GA
エージェントを本番運用するための基盤が一般提供(GA)になりました。

出典: AWS Summit New York City 2026 Keynote(01:00:00)
「モデルが脳、ハーネスが身体」という説明がわかりやすかったです。AgentCore はハーネス部分(状態保持・エラーリカバリ・コンテキスト管理・セッション分離・認証・オブザーバビリティ)を提供し、モデルとハーネスを分離することでモデルを差し替えてもハーネスを作り直さなくて済む設計です。
任意のフレームワーク・モデルで使え、細かい制御が必要になったら Strands ベースのコードにエクスポートして自前実装に切り替えられます。Strands は 2025年5月のオープンソース化以来、累計5,000万ダウンロードを突破しています。
AWS Context(新サービス、Coming Soon)

出典: AWS Summit New York City 2026 Keynote(01:12:00)
S3・SharePoint・Confluence・Google Drive などの全データから知識グラフを自動構築し、自己改善し続ける新サービスです。Iceberg ネイティブのメタデータ管理で、Glue Data Catalog と SageMaker Unified Studio と連携します。
エージェントから MCP ツールや agentic search API でアクセスできます。Amazon Quick の "sense store" と同じアーキテクチャを、自社のエージェント群に持ち込めるイメージです。
AWS Summit Tokyo 2026 で押さえるべきポイント
今年の流れを一言でまとめると「エージェントを実験から本番へ」です。
Amazon Quick の大規模導入はすでにAmazon社内で本番稼働の実績があり、それを支える AgentCore も今回 GA(一般提供)になりました。Summit Tokyo のセッションでは日本企業の導入事例や日本語対応状況について話が出るはずなので期待です。
Continuum・Kiro Release Management・Transform continuous modernization はいずれも preview 段階で、日本での展開時期はどうなるか気になりますね。また、Amazon Quick の Knowledge Graph と AWS Context はどちらも知識グラフを自動構築しますが、役割の違いが現時点ではまだ整理しきれていないです。まだSummit NYCの個別セッションの動画は公開されていないので、その辺りの公開待つか、Summit Tokyoで聞けることを期待しています





