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意外に知らない日本の森林の話

森林ノ工房(京丹後市) Shinrin-no-Kobo


 ジャレド・ダイアモンドの文明の崩壊が面白かったので、最近日本の森林関係の本を何冊か読んでいました。意外な事実も幾つかあって面白かったので、整理してみました。

日本の有史以降、今が一番森林が多い



 イメージ的には、昔は緑豊かで自然に溢れていたように思えます。しかし、実際にはそうでは無いようです。森林面積の推移で言うと、1966年は2,517万haで2007年は2,510万haと微減です。しかし森林蓄積量で言うと、1966年は1,887百万m3で2007年は4,432百万m3でと2倍以上です。この森林蓄積量とは、木立の幹の部分の体積で測る方法です。つまり面積は増えてないけど、森が成長して木の量が増えているということです。


 昭和以降の話と突っ込まれそうですが、実は江戸・明治時代もそれ程自然が豊かではなかった模様です。江戸時代はご存知の通り鎖国の為に、基本的には全て国内で自給する必要がありました。そのため、燃料から田畑の肥料まで全て森林資源に頼ることになります。いわゆる里山・草山です。その里山・草山が緑豊かな森だったかというと、そうでもないです。この辺りは、後で詳しくまとめます。江戸時代初期は森林破壊がかなり進んで、持続可能な限度を超えていたようです。その後、幕府を中心とした保護政策が成功し、何とか持続可能な状況になったものの、山々の木々は限界ギリギリまで利用されてハゲ山が目立つという状況だった模様です。そして、その後の明治・昭和初期は、政権交代の混乱や戦争で森林の荒廃が一番進んだ時期だった時代だそうです。
 また江戸以前は、どうだったのでしょう?史料を見る限り、度々森林保護の禁令が出ているようです。日本書紀による天武天皇の時代の禁令(676年)が最古の森林伐採禁止令のようです。その当時の利用目的としては、大型の寺社の建築や農耕用の利用が中心だった模様です。その傾向が継続的につづいて、1550年くらいまでに日本の森林の25%が失われたそうです。

里山のイメージと実態



 里山と聞くと、自然と人間の共生のシンボルで明るい森というイメージがあります。あながち間違いではないのですが、里山とは人間が使いやすいように手を入れ続けた森林ということです。当然、人間が入りやすいように手入れされています。近年叫ばれている里山の崩壊は、燃料や肥料など経済的な利用がされなくなった為に放置されて、植生が変化していることが大きな理由のようです。ちなみに、江戸時代の里山といえば、大半はアカマツ林、あるいは草山、禿げ山だったようです。アカマツは、割と地味が貧しいところの植生のようです。
 また稀にニュースで聞くクマが人里に下りてきて人間に危害を加える件ですが、山の食料が乏しいという理由より里山の事情が大きな影響を与えているようです。つまり今までは里山が緩衝地として人とクマを隔てていたのが、里山の森林化により人とクマが隣接するようになったとのことです。(スギ・ヒノキの人工林によって、森の食料が少ないという事情もあるようですが。)

森林破壊の原因



 では、江戸時代までの森林破壊の原因はなんだったのでしょうか?主に3つくらいあるようです。

  • 建築

 建築利用としては、一般の住居用の他に寺社仏閣や城などの大型建築の利用があります。特に大型建築物は、巨木が必要で樹齢何百年という木材が必要になります。近畿地方は古くから都があり多数の大型建築物があることもあり、周辺の森林資源を取り尽くしてしまったようです。その結果、四国や中部地方など遠隔から木材を集めていたそうです。

  • 農業利用

 農業利用としては、肥料としての落ち葉や草の利用、燃料としての柴や薪の利用があります。肥料や燃料を得るために、山を草山や芝山にして森にならないように管理することが多かった模様です。

  • 産業利用

 産業利用としては、たたら・製塩などの燃料として利用されました。たたらとは製鉄です。もののけ姫は、たたら場と山の神の戦いがテーマでしたが、ひとつのたたら場が操業するには800町(東京ドーム換算で169個分)の森が必要とのことです。また製塩も大量の燃料が必要で、燃料を確保する為の山が塩山や塩木山と呼ばれていたようです。

森林蓄積量が増え続ける理由



 さて、戦後の昭和以降一貫して日本の森林の蓄積量が増えてきた理由は何でしょうか?理由は単純に、利用されなくなったからです。今の時代のエネルギーの主流は、石油などの化石燃料です。また、肥料も化学肥料に取って代わられています。そして、建築用では輸入材に押されて全利用量の内、国産は30%程という状況です。

森林の質の低下



 上記の結果として森林蓄積量が年々増え続けています。それで万々歳かというと、そうでもないのです。いわゆる森林の質の低下です。日本では森林のうち、4割が人工林です。これに手を加えないと年々荒れてくるようです。例えば、スギの場合は適度に間伐しないと、上に上に伸びていきヒョロヒョロの細い木になるようです。そうすると、台風などの災害にも弱く、また当然ながら市場での価値が低いということになります。
 では、何故手が加えられないかというと、経済的に採算がとれないからです。海外の外材の輸入など色々な要因はありますが、それ以前に林業の計画が間違えていたのは間違いないようです。40〜50年前の植林ブームの時は、例外的に木材価格が跳ね上がっていた時代のようです。その時の価格をもとに計画を作っていたので、やっと伐採期に入っても採算が取れなくなって放置されるという結果になっているようです。

まとめ



 調べてみると、知らなかった事がどんどん出てきます。知れば知るほど林業の再生というのは、これからの日本にとっては大きなテーマだと思います。が、スケールが大きすぎて、どう考えていけば良いのでしょうね?国家百年の計ではないですが、本当に50年100年先のことを考えながら計画する必要があります。先進国でありながら、ドイツは林業が一大産業になっているようです。その辺りも調べてみると面白そうですね。


See Also:
由布岳南山麓の野焼きと奇跡の原っぱ
ジャレド・ダイアモンドの文明の崩壊。森林破壊と和歌山と


参照:
林野庁/森林・林業白書
日本の森の歴史:2.日本人と森:森学ベーシック|私の森.jp 〜森と暮らしと心をつなぐ〜