AWS本やクローラー本を出していると、「上級者向けの本は出さないのですか」とよく聞かれるます。残念ながら日本のIT業界向けの出版事情を考えると、なかなか難しいというのが正直なところです。
IT業界向け出版物の市場規模
難しい理由として、市場規模があります。IT業界で働く人の数は定義次第なので幅がありますが、100万人程度と仮定します。市場の規模は、この母数に対して1人あたり何冊買うかが上限となります。この段階で、コミックや一般書に較べて、著しく小さいことが解ると思います。
さらに初級・中級・上級とカテゴライズすると、この母数に対して更にフィルタリングすることになります。コミックだと対象年齢はある程度はあるものの、レベルによってフィルタリングすることはないですね。市場規模は下の概念図のとおり、上級者の市場は必ず初級・中級者の市場より小さくなります。
細分化されたカテゴリ
この段階で上級者向けの本の厳しさというのが伝わると思いますが、もっと厳しい問題があります。実際のコンピュータ書という市場は、一つのカテゴリではなく複数のカテゴリに細分化されています。例えば、インフラエンジニア向けやアプリエンジニア向けといったざっくりとした分類の下に、プログラミングであればJavaやRubyといった各言語ごとに細分化されます。
細分化したカテゴリに対応する方法は?
それでは、どうしたら上級者向けの本を出せるのでしょうか。答えとしては、小さな市場でも利益が出るようにするしかありません。一つの方法は、単価を高くする方法です。医療書などは、1冊数万円といった値段なので、そのイメージですね。もう1つは、出版に関するコストを下げるということです。
紙の本を出版するとなると、かなりのコストがかかります。装丁や図表・DTP化などで色々な業界の人が関与します。これを簡略化し、執筆者自身で完結できるようにすればコストを下げられます。また、紙の本の場合、流通のこともあるのである程度の分量のものでないと出版できません。
しかし、1テーマに特化した30ページくらいの本であれば、執筆・校正期間も短くできます。Kindleをはじめとする電子書籍であれば、価格設定の自由度も高いです。また印税率も紙の本よりも優遇されているケースが多いです。そういった点から、細分化したカテゴリや上級者向けの本は、Kindleで出版するのが面白いと考えています。
カテゴリ横断の共通リテラシは?
話は少しずれますが、より多くの人に届けたいのであれば、細分化したピラミッドの共通の土台にあたる部分に向けて本を出せば良いのではという発想になります。私も長らく、その共通カテゴリはなんだろうと探していました。技術のレイヤーで言うとWindowsなどOSになるのですが、全ての人にOSの本を読む必要はないでしょう。また、入門書を読まないといけないようなOSであれば、そもそも設計としてダメでしょう。
そして最近その答えが解りました。それはExcelです。「たった1日で即戦力になるExcelの教科書」という本が、2014年10月にでているのですが半年たった今でも、コンピュータ・ITカテゴリの上位に君臨し続けています。半年累計で10万冊近く売れているという化け物のような本です。ここ数年でコンピュータ書としてはトップクラスに売れているリーダブルコードですら累計3万冊くらいということなので、ぶっちぎり感が解ると思います。
ということで、今の所のIT業界の共通リテラシとしてはExcelという結論です。Microsoftを支えているのは、WindowsではなくてExcelということがよく解りますね。
※実際のところはIT業界以外の人も買っているのがヒットの要因だと思います。半分冗談として流してください。
感想
少し脱線しましたが、紙の本という制約を無くせば、今まで市場として成り立たなかったニッチな分野にも進出できます。それにより、出版物の多様性はもっと増えるはずです。なかなか面白そうなので、今年挑戦してみます。ただし、自分の力量で上級者向けの本を出せるかは解らないので、勝負するところは考えてみます。
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