プログラマでありたい

おっさんになっても、プログラマでありつづけたい

一勝九敗

 今更ながらユニクロの社長の柳井さんの一勝九敗を読みました。出版されてからもう5年以上経っていますが、古さは全然感じられません。自分にとっては20代の時に読むより、むしろ30代の今こそ読んだのが良かったのかなと思います。
 私はIT業界で働いているのですが、目指すべき組織論やスピード感が一致しているように思えます。変化の激しいIT業界では、進化をすることを否定したらそこには緩慢な死しか待っていないのです。そこを改めて思い起こすきっかけになりました。


 本文中の気になった文章をピックアップしていると、切り抜きだらけになりました。
P98

 人件費が高い現在の日本では、繊維産業、とくに縫製のような労働集約的な産業はもうやっていけない。労働者時代の確保もできない。もし、継続してそのような産業をやりたいのであれば、労働集約的な産業が一番評価される場所・国に行ってやらないと成功しないだろう

 中国やインドのオフシェア開発が普通になってくるなど、日本の技術者にとっても他人事では無くなってきました。ここでポイントになっていくことは、労働集約ということです。本来、知識集約であるべき開発の仕事が、人海戦術の労働集約になっていることです。この部分を考え抜かないと、日本でエンジニアとして生きていくのは難しくなると思います。


P104

 多店舗展開あるいはチェーン展開していく初期のころは、如何に標準店をローコストで出店し、どの店にいっても同じプライスの同じ商品が並び、同じサービスが受けられるようにするかに力点が置かれる。つまり本部にすべての「頭脳」があって、店舗は本部が決めたマニュアル通りに動く「手足」となるのが理想形だった。店舗を出すということは、単純化すると「金太郎飴」をどんどん作る事に通ずる。ABC改革ではその正反対を要求したのだから、店舗の側が困惑するのは当然かもしれない。でも、このっまでは現状を打破できないとすれば、変更するのは当然の試みといえよう。本部が偉いのではなく、お客さまとの接点の最前線である現場こそが重要なのだ

 日本のSIerの典型的な進め方のウォーターフォール型に通じると思います。本部(一次請け)が設計して、手足(二次、三次請け)が言いなりで作る。当然何の為に作るというのは伝わってこないと思います。やはりSIerを頂点とするIT土方を崩していかないといけないのでは。(もっとも最早一次請けは設計すらしていないという現実もありますが)


P140

 端的に言えば、われわれにとってファーストは即断即決という意味。間違ったり失敗してもいいから、早く判断して実践するべきだと思っている。

 ここまでハッキリ言い切れるのは凄いと思います。失敗を認めないから、ぐずぐずと事業を続け撤退すら出来なくなるという事例は五万とあります。事業には失敗はつきものだから、早く実践しろというのは素晴らしいと思います。


P144

 現実の組織あるいは人の集まりには、様々な能力を持った人がいる。十人の組織でも、最高の十人をそろえるのは無理だ。優秀な人が二人、普通の人が六人、足を引っ張るダメな人が二人、これが現実である。仮に十人の優秀な人が集まったとしても、気がつくといつのまにかそんな構造になってしまう。また、ダメな二人を首にしたとしても、残った八人の中でもまた、ダメな二人が生まれてしまうものだ。

 働き蟻の理論?私もドリームチームに憧れることがありましたが、最近は草野球から甲子園を目指すのが現実的な企業内のチームのあり方なんじゃないかなと思うようになって来ています。

 
P155

 かつては、店長の次にはスーパーバイザーになるという図式であった。チェーンストア理論によると、店長は出世のステップにすぎない。店長を経てスーパーバイザーとなり、今度はその上のブロックリーダーになる。そして本部にあがる。しかし、このやり方ではダメなのである。店長を最高の仕事ととらえ、店長の仕事を全うすれば、本部にいるよりも高収入が得られる。このような仕組みを作らないと、小売業は繁栄しない。

 ここもIT業界のキャリアプランの問題点と同じだとおもいます。IT業界だと、一般的なキャリアプランは、プログラマ→SE→プロジェクトマネージャ→管理職となっています。管理職以上に給料を貰うプログラマって、一部のベンチャーしかありませんよね。ここを何とか出来ないと、優秀なエンジニアというのは去っていくと思います。さりとて、殆どの会社で自分の信じるキャリアプランを貫き通すには相当の覚悟が必要なのも事実です。


P164

 会社組織は、その会社の事業目的を遂行するためにある。いったん、組織ができあがってしまうと、今度はその組織を維持するために仕事をしているようにみえることがある。何が何でも組織を維持していかなければいけないんだ、という錯覚におちいる。大きな組織になればなるほど、そこを間違える。おそらく組織保存の法則のようなものがあって、組織をつくると上司はそれに安住する方が楽なので、変化を求めず安定を求めていく。会社の環境、顧客や社会情勢が変わると、組織や人員は位置を変えなければ対応できないのに、環境などが変わったこと自体を認めなくなるのだ。組織は攻めのためにつくり、守りのためには必要最低限のものしかいらない。常に、組織は仕事をするためにあって、組織のための仕事というのはない、と考えておく必要がある。

 大企業病と言いますが、官僚機構と言いますか、組織の為に仕事を作られているというのも多分にあります。それが当たり前になって疑問に思わないようになると、もう終わりかもしれません。自戒しておきます。


P177

 そもそもハイテク業界では、終身雇用という前提は成立しえないと思う。というのは、一つの技術を仕事の柱にしていても、ある日突然、次の技術にとってかわられたら、そこでその会社や事業は終わりだからだ。働いている人たちも同じで、大型汎用コンピュータのプログラムばかり作っていた人は、いまのパーソナルコンピュータやハイテク機械の高度化や技術革新に追いついていないはずだ。「いま自分がやっていることは時代に追いついていない可能性があるのではないか」と疑いながら、常時、勉強していない限り、第一線ではやっていけない。そういう業界だ。会社自体も同じである。すべてが順調に見えたとしても、「仮の姿」と思わないといけない。

 まぁ、一朝一夕で技術ががらりと変わることはないと断言できますが、極論すればあっという間に古い技術が駆逐されるというのも事実です。問題はそこを自覚して働いているハイテク業界の人間って、実際の所少ないですよね。或は無意識で自覚しているから、みんな管理職を目指しているのでしょうか。うーん。


P240

「若者支持率No.1」というのは、まず「若い人=感受性が鋭い」ということ。われわれの生み出す商品は、そういう感受性の鋭い人たちに指示されない限り、うまくいかない。
〜中略〜
たとえ、お年寄りに評価されていたとしても、若い人たちに評価されないと将来性はない。

 この考え方は成る程と思いました。確かに将来性という観点では、若者に評価されないと行けませんね。日本の問題点の一つは、決断するのが極端に年配の方々であるということがあると思います。例えば、若者向けのサービスを企画しても最終的に許可を出すのは役員でしょう。この人たちには、もう若者の感性はありません。なので、大企業で突飛なアイデアが出てくる可能性はほとんどないでしょう。(その辺を上手くしているなぁと思えるのは、リクルートですね。)


P260

 当社のいる業界は、ある意味ではハイテク業界に一番近いのかもしれない。これまで「NO」だと言っていたものが突然「YES」になり、「YES」といっていた事が「NO」になる可能性が非常に強い業界だ。

 最後の最後に、柳井さんの経営感覚の発露がありました。やはりハイテク業界並みのスピード感を重視していたのですね。


 この他にも大切なことは色々書かれていました。折に触れて読み返そうと思います。


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