映画もやっているし、前から気になっていたので選んで読んだのがこの一冊です。武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)
代々加賀藩に仕えた御算用家である猪山家の家計簿記録を元に下級武士の生活の実態を紐解いています。御算用者とはソロバン一本で身を立てている武士で、一般の武士と違って世襲ではなく能力主義で採用されるという当時にあっては異色の身分だったようです。ソロバン侍として下に見られていたのが、時代の変化とともに役割が変化していく様子が面白いです。
加賀百万石となると大名行列も日本最大級です。となると伴の宿や食料はもとより、足袋など細々したものの消耗まで考えないといけません。つまり補給の計算です。その能力は、幕末の騒乱。さらには海軍国家と変貌するにつれ、ますます重要になってきたようです。家柄より能力。今の時代に通じるものかもしれません。
エピソードも面白いのも多く、家計の再建の為に倹約をし祝い事の鯛も絵に書いた鯛で済ませるとか。家財を一切売り払って借金の返済ならびに、商人と交渉して金利の免除とか。多くの武士が没落していくなかで、算術の力で家を盛り立ていく姿は痛快でした。
また、猪山家の投資先の対象の算段から、何故明治の士族階級が地主化しなかったのかの考察も興味深いです。明治初頭の士族がとりうる投資先としては、地主・貸し家・貸金などがあったようです。猪山家はそれぞれの初期投資と期待収益を考えて、地主が最も割に合わないと判断していたようです。事実、地主になろうと農地に投資していたものは軒並み失敗していた模様です。当たり外れのある地主より、貸し家や貸金の方が安定的に10%超の利率が見込めた模様です。なるほどと思います。
この他にも東大の赤門の裏話や、江戸時代を通じての金貨の貨幣価値など興味深い話が満載です。最近の新書は内容が薄いものが多かったのですが、この本は久方ぶりの大ヒットです。ぜひ読んでみてください。
新潮社
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